かつての化学の初学者向けの教科書の定番であったライナス・ポーリング『一般化学』を、最近ひょんな事からもう一度入手する必要に迫られるということがあった。
アマゾンで探してみるともう絶版で、古書サイトでも一万円以上することがわかっていささか驚いた。時代が30年も前の物だから仕方ないが、今の化学の初学者の教科書は何が定番なのだろう。
英語版なら当然あるだろうと思ったが、アメリカのアマゾンのサイトでは在庫切れだ。これにも驚いた。そしてさらに驚いたのは、日本のアマゾンではあっさり入手できたことである。青い鳥はいつも身近にいるのか。
さて、久しぶりにこの本を開いてみて若い頃の記憶がよみがえった。この本の出だしはなかなか哲学的で「宇宙は物質と放射エネルギーから構成されている」…だから、化学とはその両者を扱うという点で宇宙全体を対象とすると書かれている。
実は最初にこの本を読んだときには、この出だしにはそれなりに感銘を受けて、これはポーリングらしい記述なのだろうと漠然と思っていたが、そうでもないということに今更ながら思い至った。
というのも、たまたま、最近文庫本になったウィーバー、シャノンの『通信の数学的理論』を読んでいたらウィーバーの「情報」について類似の記述があることに気がついたのである。
そういえば、インターネットについても宇宙的な視野での議論をする人がいたっけ。
さらに数学者も物理学者も、普通にそういった事をいつも言っているような気がする。
我々の世界に対する記述方法はたくさんあって、それぞれが全世界を記述するのに足る道具であると考えてみるのはなかなか楽しい知的なゲームだが、こうした出だしはまた反哲学的な意味も含んでいるのかもしれない、とも思う。
哲学が長い間むにゃむにゃ悩んできたことを化学や情報のような「小さな分野」であっさり覆ってしまえるのだ、という宣言として読むと、これはこれでなかなか西欧的な世界観を表しているといえるのかもしれない。
General Chemistry (Dover Books on Chemistry)
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