Seishi Ono's blog

Fugaces labuntur anni. 歳月人を待たず

Windows11のWSLインストール

故あって,WIndows11をクリーンインストールしてみた.その直後にWSLでubuntuなどをインストールしようとすると,

WslRegisterDistribution failed with error

と言われてしまう.

そこで以下のように,WSLのバージョンを1に設定しておいて

wsl --set-default-version 1

改めてubuntuインストールすると成功する.

wsl --install -d ubuntu

wsl2にするためには,改めてwsl2対応のカーネルをダウンロードインストールしてから,

wsl --set-version ubuntu 2

として,WSL2にバージョンを上げるとうまくいった.

 

Windowsは良くわからないのだが,まあいいのか.

 

CentOs Stream 9を試す

RedHat Enterprise 9系のアップストリームとなったCentOS Stream 9は,デビューしたてのOSであり,その分無駄な努力が必要になる.なお,使い勝手は,Redhat Enterprise 8系と変わるところが少ないように思う.

1 開発ツールの導入

グループインストールで必要そうなものを導入する

dnf group list
dnf group install "Development Tools"
dnf group install "RPM Development Tools"
dnf group install "Security Tools"

2 リポジトリの有効化

初期のリポジトリ
dnf repolist repo
repo id            repo の名前
appstream          CentOS Stream 9 - AppStream
baseos             CentOS Stream 9 - BaseOS
CRBリポジトリ有効化
dnf config-manager --set-enabled crb

3 サードパーティーリポジトリの導入

現在,epelとremiが利用できることになっているが,epelの中身はこれからという段階であろう.
epelリポジトリの導入

dnf install \
https://dl.fedoraproject.org/pub/epel/epel-release-latest-9.noarch.rpm \
https://dl.fedoraproject.org/pub/epel/epel-next-release-latest-9.noarch.rpm

remiの導入

dnf install https://rpms.remirepo.net/enterprise/remi-release-9.rpm

有効化されたリポジトリ

dnf repolist
repo id            repo の名前
appstream          CentOS Stream 9 - AppStream
baseos             CentOS Stream 9 - BaseOS
crb                CentOS Stream 9 - CRB
epel               Extra Packages for Enterprise Linux 9 - x86_64
epel-next          Extra Packages for Enterprise Linux 9 - Next - x86_64
remi               Remi's RPM repository for Enterprise Linux 9 - x86_64
remi-modular       Remi's Modular repository for Enterprise Linux 9 - x86_64
remi-safe          Safe Remi's RPM repository for Enterprise Linux 9 - x86_64

4 rpmの構築

epelリポジトリには,私が必要としているアプリがまだ入っていない.nkfやw3mも無いようである.間もなく解消されるとは思うが,当面はRPMfindサイトでSRPMを見つけてきて,再構築することにする

rpmbuild --rebuild nkf-2.1.4-22.fc35.src.rpm

5 certbot-nginx の導入

certbotは,pyhton3対応のrpmパッケージのビルドはとても面倒なので,pip3でインストールする.

certbotで必要な/etc編集ツールを入れる
sudo dnf install augeas
pipをスーパーユーザで入れる

好ましくない方法だが,個人で使うだけなので,pipをrootでインストールしてしまう.

sudo pip-3.9 install certbot
sudo pip-3.9 install certbot-nginx
which certbot
/usr/local/bin/certbot
alternativesの作成

/usr/local/binのpathは,rootでは,渡らないのでalterbative機能を使うことにする.将来リポジトリからcertbotを導入した時の問題をいくらか緩和できるだろう.

sudo update-alternatives --install /usr/bin/certbot certbot /usr/local/bin/certbot 1

これでnginx で設定できるようだ.

sudo certbot --nginx

rpmのバージョン番号削除

rpmでファイル一覧を取得する場合,バージョン番号を削りたい場合がある.sedを使った方法は,以下のような方法がある.

rpm -qa|sed -e "s/^\(.*\)-\([^-]*\)-\([^-]*\)$/\1/g"

しかし,以下の方法が正統的だし,結果も誤りが無いようである.

rpm -qa --qf "%{name}\n"

 

これもバッドノウハウの一つだと思う

 

Drupal9へのバージョンアップ

はじめに

Drupalは,6から8までお付き合いしてきて,都合二回バージョンアップしたことになるが,小さなサイトでも,このバージョンアップはそれなりに面倒だった.今回のdrupal9は簡単になると言われていたが,結局バッドノウハウを突っ込む必要があった..

というのもdrupal9では未対応の,モジュールを処理するのは,それなりに工夫が必要である.工夫はおおきくわけて2つ必要である.

  1. alpha版などは.モジュールをインストールするときに明示的にバージョン指定しないとインストールできない.webformが当初はそうであった.
  2. 9未対応のモジュールを削除してもデータベースには残骸が残るのでそのお掃除が必要である.

前者は,わかってしまえばどうということもなく,また,時間が解決するであろう.今回は,後者の話である.

エラー処理

バージョンアップ後メンテナンス用のコマンド

drush cr
drush updb
drush cron

などを実行してエラーが出たら,データベースのお掃除をする必要がある.

ここでは,drupal9で未対応となったtwitterモジュールを例にとる

drush php-eval "\Drupal::keyValue('system.schema')->delete('twitter');"

 これで,済めば良いが,大概エラーは出続ける.次は,やってはいけないといわれているが,ダミーのモジュールを作成する.

(drupal)/module/contrib

などのmoduleのパスがわたっているディレクトリの下に

twitter

というディレクトリを作る.そこに以下のようなファイルを置く

twitter.info.yml

name: Twitter
type: module
description: 'Dummy'
core_version_requirem: ^8.8 || ^9

これでエラーの一部は消える.しかし,まだエラーが残るようであれば,そしてそのエラーは,もはや処理済みと確信すれば,以下のようにしてエラーを抑止する.

drush ev "drupal_set_installed_schema_version('address', 8104)"

以上,二度と使わないような,バッドノウハウではある.

結論

apache+phpのCMSはwordpressといい,drupalといい,そろろそ時代遅れの感がある.これからは,nginx+JSなどのヘッドレスCMSが主役になって行くのだろう.とはいえ,ヘッドレスCMSでメインストリームになりそうなものは,有力な候補はいるものの,まだこれからであろう.それまでの少しの間は,バッドノウハウにお付き合いするしかなさそうではある.

日本の高等教育機関における教員と事務職員(7・完)

7 結論:夢を越えて

日米の大学のマネジメントのありかたを比較してみると,それぞれに利点と欠点がある事がわかる.,高度成長時代において,日本的経営の下での企業にもたれて運営されてきた日本の大学は,アマチュアの経営が十分に成立する余地があり,そこからもたらされる自由な研究環境は多くのノーベル賞受賞者を生み出すまでになった.しかし,そのような企業との蜜月時代は終わりを告げ,今日,大学は日本的経営との強い依存関係からの脱却無しには存続し得ない時代に至っている.大学経営もプロフェッショナルによる経営が必要となっている.この点では,財政赤字から大学への支援を打ち切られ,大学が自律的な経営を実現するための努力を続けてきた米国のプロフェッショナルによる大学経営をベンチマークにすることで得られるものは多くある.

一方で,米国の大学の経営も多くの問題を抱えている.ギンズバーグは『大学の没落』[35]という著書において,米国の大学は,かつての教員中心の大学経営が,次第にプロフェッショナルによって経営されるようになり,その結果,教員の発言力が低下し,教育よりも経営が重視される大学となってしまったことを指摘し,その結果,マネジメントのための経費が膨れ上がり,現在の学費高騰を生んでいる,という批判を行っている.

この批判から分かることは,かつての米国の大学も日本の大学とよく似たアマチュアによる経営で成り立っていた時代があり,それがプロフェッショナルによる経営にとって代わられ,今日に至ってマネジメントコストがあまりに大きくなってしまったという歴史があることである.また,その過程の中で,全ての大学においてではないにしても,かつての教員達は,大きな不満を蓄積していったことも読み取れ,かつてマーティン・トロウがユニバーサル型における大学の内部運営について,学内コンセンサスの崩壊を予言していたことを思い出させる.こうした点は,今後日本の大学において,プロフェッショナルによる経営が中心となった時に他山の石とすべき教訓である.

大学経営が成功するためには,組織の構成員が経営の意志を理解できるのに十分なコミュニケーションをどのようにとって行くかが,一番大切な事項である.教職協働では無く,組織的なコミュニケーションこそ,大学経営の成功のために,本当に求められていることなのである.

 (了)

参考文献

[1]大場淳. 「大学職員の開発−専門職化をめぐって」. 広島大学高等教育研究開発センター『高等教育研究業書 (105)』, 2009年.

[2] 文部科学省高等教育局長.「大学設置基準等の一部を改正する省令の公布について(通知)」,28文科高第1248号, 2017年 

[3]マーティン・トロウ(天野郁夫,喜多村和之訳).『高学歴社会の大学―エリートからマスへ』.東京大学出版会, 1976年

[4] 「機敏に自己革新を,外国人教員を教授会メンバーに」.日本経済新聞, 2013年8月11日付

[5] 有本章.「高等教育の国際比較研究におけるトロウモデルと知識モデルの視点」.広島大学高等教育研究開発センター大学論集. 第 33 集(2002年度), 2003年

[6] Abegglen, J. C. The Japanese factory: Aspects of its social organization. Free Press.1958.

[7] 柴垣和夫「戦後日本資本主義——その再生・発展・衰退——」.鶴田満彦・長島誠一編『マルクス経済学と現代資本主義』.櫻井書店.2015年.

[8]浅野長二. 大学に対する希望. 工業教育, 2.1: 24-28, 1954年

[9]経済産業省. 「産業構造ビジョン 2010」, 2010年

[10] 参議院経済産業委員会調査室.「日本経済の変遷と今後の成長確保策としての支柱」.経済のプリズム, No111, 2013年

[11] 佐藤真人. 「戦後日本の資本蓄積と内部留保」. 關西大學經済論集, 65(3): 251-281, 2015年

[12]文部科学省.「高等教育の将来構想に関する基礎データ」.中央教育審議会大学分科会(第135回)配付資料,資料1-2,2017年

[13] 「私立大112法人が経営難、21法人は破綻恐れ」.読売新聞,2017年12月31日付

[14]日本私立学校振興・共済事業団.「平成29(2017)年度私立大学・短期大学等 入学志願動向 」.2017年

[15] 郡千寿子. 「教員と職員—弘前大学の取り組み」.平成29年度大学質保証フォーラム−学生のための大学をつくる.大学改革支援・学位授与機構.2017年

[16] 戸部良一, et.al. 『失敗の本質: 日本軍の組織論的研究』. 中央公論新社, 1991.

[17] Chandira Punchihewa. “Introduction to e-learning”. Your e-Learning Tutor: Introduction to e-learning.URL: https://knowelearning.wordpress.com/tag/hype-cycle-of-e-learning/, Last access January 8, 2018. 2013

[18] Li Yuan. “MOOCs and Higher Education: What is next? “, Cetis Blogs, URL: http://blogs.cetis.org.uk/cetisli/2013/06/25/moocs-and-higher-education-what-is-next/, Last access January 8, 2018. 2013

[19] Webster University Online “Trends in Online Learning”, http://websteruonline.com/trends-in-online-learning/, Last access January 8, 2018. 2015

[20] Laura Pappamo. “The Year of the MOOC”, The New York Times, Nov. 2, 2012. http://www.nytimes.com/2012/11/04/education/edlife/massive-open-online-courses-are-multiplying-at-a-rapid-pace.html, Last access January 8, 2018. 2012.

[21] Derrick Harris. “Udacity founder: MOOCs can help the economy, even if they can’t replace college”. https://gigaom.com/2014/01/25/sebastian-thrun-moocs-can-help-the-economy-even-if-they-dont-replace-college/, Last access January 8, 2018. 2014.

[22]小野成志.「e-ラーニングTIESの体験」.教員と職員のこれから.https://www.slideshare.net/SeishiONO/from-now-on-faculty-and-administrative-staff,2018年1月8日閲覧,2017年

[23] ALLEN, I. Elaine; SEAMAN, Jeff. “Online Report Card: Tracking Online Education in the United States”. Babson Survey Research Group, 2016.

[24] John Warner. “MOOCs Are "Dead." What's Next? Uh-oh”. Inside Higher Ed. October 11,2017. https://www.insidehighered.com/blogs/just-visiting/moocs-are-dead-whats-next-uh-oh, Last access January 8, 2018. 2017

[25] The White House Office of the Press Secretary, “FACT SHEET on the President’s Plan to Make College More Affordable: A Better Bargain for the Middle Class”. https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2013/08/22/fact-sheet-president-s-plan-make-college-more-affordable-better-bargain-, Last access January 8, 2018. 2013

[26] Steve Kolowich, “Southern New Hampshire U. Designs a New Template for Faculty Jobs.” THE CHRONICLE OF HIGHER EDUCATION, MAY 08,2014. https://www.chronicle.com/article/Southern-New-Hampshire-U/146443, Last access January 8, 2018. 2014

[27] 船守美穂.「Post MOOC 時代の大学教育―オンライン教育を取り入れた教育の質向上の試み」.NPO法人CCC-TIES 報告集 vol.6,TIES シンポジウムオープンエデュケーションに直面する日本の大学 −Post MOOCとCHiLOの可能性−, http://www.cccties.org/wp/wp-content/uploads/2014/11/p20140614_TIESsymposium_v1.0.pdf,2018年1月8日閲覧,2014年.

[28] Martin Weller. “Mapping the open education landscape”, The Ed Techie, November  9, 2017. http://blog.edtechie.net/oep/mapping-the-open-education-landscape/, Last access January 8, 2018. 2017

[29] 榊原康貴.「大学通信教育とオープンエデュケーション」.ViewPoint,Vol14,CTCアカデミックユーザーアソシエーション,2014年

[30] Feldstein, M. “Why Unizin is a Threat to edX”. Re-trieved from e-Literate: http://mfeldstein. com/unizin-threat-edx, Last access January 8, 2018. 2014.

[31] Phil Hill. “Unizin Updates: A change in direction and a likely change in culture”. E-Literate: https://mfeldstein.com/unizin-updates-change-direction-likely-change-culture/, Last access January 8, 2018. 2017

[32] Birnbaum, Robert. Management fads in higher education: Where they come from, what they do, why they fail. Jossey-Bass, 2000.

[33] Alan Key. A powerful idea about ideas. TED2007. https://www.ted.com/talks/alan_kay_shares_a_powerful_idea_about_ideas, Last access January 8, 2018. 2007

[34] 中央教育審議会.「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」.文部科学省.2014年.

      [35] Ginsberg, Benjamin.The fall of the faculty. Oxford University Press, 2011.

日本の高等教育機関における教員と事務職員(6)

6 教員と事務職員の夢から現実への道

ここまで見てきたことをまとめれば,日本の大学は,新卒一括採用と自前主義により運営されてきた.これは日本的経営を採用する企業にもたれてこそ実現できた運営方法であった.これからの日本の大学は,同じような運営を維持することはできない.日本的経営が限界を迎えている一方で,超高齢化社会は目の前に迫っており,18歳人口は減少の一途を辿っている.日本の大学は今後どこに活路を見いだすべきかについて考える時期に来ている.

日本の大学が第一に達成すべき課題は,既に見てきたよう企業の新卒一括採用方式に依存した仕組みからの自立である.将来を見据えた場合,企業はいつまでも新卒一括採用方式を維持することはできない.このために.日本の大学としてできることは,学生の卒業後の進路について適切なポートフォリオを持つことである.現状の新卒一括採用方式は否定できないが,多様な進路が用意されているべきである.その具体的な手段をグローバル化の中に見いだすことができる.世界の企業や大学院進学などへのステップは,今後の大学経営にとって見通しておかなければならない.

第二の課題は,多様な入学者の確保である.卒業後の進路の多様化を前提にすれば,日本の18歳人口の変動に一喜一憂する必要は無い.多様な卒業後の進路を前提に,多様な入学者を確保することになる.すなわち,世界各国からの入学者を確保し超高齢化社会での生涯学習の機会を生み出すことである.

この二つの課題は,日本のどの大学にとっても十分に理解されている課題であるにも関わらず,多くの日本の大学はこの課題の解決の達成に時間を要している.しかし,それ故に,ここには,競争を勝ち抜くための多くのチャンスが眠っている.そのチャンスを掘り起こすのが,大学の構成員であり,従来の区別で言えば教員と事務職員である.

そのためになすべきことは,ここまで検討してきた大学の構成員の状況を踏まえれば,(1)プロフェッショナルの経営者により,(2)教育研究に専念するスタッフを配し,(3)non-academicの分野では,分野毎にプロフェッショナルのスタッフを配するという3つの対策である.以下では,この3つの対策を見ておくことにしよう.

6.1 プロフェッショナルによる大学経営

プロフェッショナルの大学経営者については,日本において人材がいないという意味では無いことに注意すべきである.大学運営に巧みな経営者は,現に多く存在している.しかしながら,ストロナク[4]が述べたように,そうした人材を大学運営のプロフェッショナルとして認める環境が存在せず,そのような分野がある事も自覚されないところに問題がある.このため,アマチュアの経営者とプロフェッショナルの経営者が区別なく扱われ,プロフェッショナルの経営者による大学運営が成熟してゆかない.プロフェッショナルの大学経営者を活用できる市場も形成されない.

それゆえ,各大学において求められていることは単純である.大学の経営者は,プロフェッショナルの仕事であるという価値観を共有し,理事長,学長による現在の大学経営を,巧拙はあれどもプロフェッショナルの仕事として認めるだけである.「学長は,大学経営のプロフェッショナルである」という構成員の意識は,それだけで,経営に変革をもたらす.それによって大学の構成員である教員と事務職員のありようも変わる.

6.2 大学の運営

私立大学の運営は,伝統的には,トップダウンに徹した「理事長主導型」とボトムアップの意思形成を尊重した「教授会主導型」のスタイルに分類されると言われて来た.いずれのタイプも共通しているのは,トップと構成員の間のコミュニケーションの不足である.これに対し,ストロナク[4]は,大学経営においてのコミュニケーションの重要性を指摘する.

トップの理念を,構成員が良く理解し,チームワークで理念の実現に向けて進むための努力が,大学の運営に限らず,どの事業ドメインにとっても不可欠であることは言をまたない.しかしながら,大学経営に十分精通していない経営者の場合,その必要性を痛感したとしても,どのようにしてそのようなコミュニケーションを図るかについての技量が十分ではなく,運営に苦労することになる.古いタイプのマネージャーは,こうした場合,勤務時間外の懇親でコミュニケーションを取ろうとするが,現代においては,そのような試みが成功することはない.

日本の多くの私立大学が独特であるのは,組織内のコミュニケーションの不足を補うこと無く,あるときは,理事長の一方的な意志決定により物事を進めて失敗するか,また別の時には,教授会の意向を尊重して,結局何も物事が進まないか,常にどちらかであることにある.大学運営のプロフェッショナルであれば,こうした問題の解決の糸口をみつける技量を持っている.実際に,そのような大学のベストプラクティスは多く存在している.

6.3 教育と研究

現在の日本の大学は,大学運営のプロフェッショナルという認識が薄いため,本来は教育研究に専念すべき研究者も,大学運営に多くの時間を奪われている.従来の意味での教員は教育と研究のプロフェッショナルなのであり,その業務に専念すべきである.

また,研究者が研究のための時間を確保するためには,教育に専念するスタッフも考えるべきである.南ニューハンプシャー大学の例に見られるように,教育に専念するスタッフは,研究業績に追われること無く教育に専念できる[26].プロフェッショナルとして教育に専念することは,研究に専念する研究者には無いプロフィットがある.

日本の大学においても,教育への取り組みは変化を遂げつつある.例えば,一部の講義を語学学校へアウトソーシングする動きは,いくつかの私立大学で見ることができる.また,教育の態様によっては,従来の意味での教員が担当する必要の無い分野がある.例えば,コンピュータスキルの不足する学生への学習支援などは従来の意味での事務職員が担当する場合もある.このように教育の分野では,すでに従来の教員と事務職員という意味合いが,少しずつではあるが失われつつある.しかし,これらの動向は,なし崩し的に行われている例が多く,紆余曲折の果てにいつの間にか旧来の体制に復古してしまう事例も多い.大学運営上の明確な意志決定によって,教育に専念するスタッフの在り方を決定する必要がある.

一方,教育に専念するスタッフの存在により,研究に専念する教員は,一部の教育を分担しながら,研究のために一学期をまるごと割り当てるような方策も採ることができる.近年日本の研究論文数の減少に対する懸念が取り上げられることが多いが,研究者に自由な時間を確保することは,かつての高度成長時代のような自由な研究環境を提供することを可能にする.

6.4 Non-academicのスタッフ

研究教育を取り巻く,non-academicな大学運営のスタッフは,コア業務に集中すべきであり,ノンコア業務はアウトソーシングなどに任せるべき分野である.Non-academicな大学運営上のコアは,比較的単純であり,アドミッションオフィス,IR業務,キャリア支援の3業務である[32].これらを担う構成員は,それぞれの固有の専門的な技能を必要としており,しかも,常に環境変化にさらされ,新しい技術を習得しなければならない.

アドミッションオフィスは,本来的には入試問題の作成から合格者を確定する作業を含む,入学までの多様な業務を含んでおり,大学の基本的な収入を支える業務である.従来の考え方で言えば,入試問題を作成したり採点したりすることは教員の仕事であったが,慎重を要する業務を教育と研究を専業とするはずの教員が片手間でやるべき仕事ではない.専門のスタッフが対応すべき仕事であり,そのスタッフが入試に関するプロフェッショナルであり,研究者であることが求められる.つまり,従来の教員の一部がアドミッションオフィスのスタッフとなる.あるべき姿を見据えれば,この部門では,従来の教員と事務職員という区別は殆ど意味を満たない.

IR業務については,すでに研究者が,専任スタッフとして行う大学がある.現状では,このような要員は特任の教員としての身分が与えられていることが殆どである.今後は,従来の教員の身分にこだわること無く,あえて従来の区別で言うならば事務職員として研究者が携わることが自然である.

最後に,キャリア支援は,すでに見てきたように,高等教育機関が従来の新卒一括採用方式にもたれかかったキャリア形成から脱却し,多様なキャリア形成を視野に入れるために大きな転換を要する分野であり,急速に変化する社会状況を常に認識し,グローバリゼーションを踏まえた施策を提案できる立場になければならない.そのためには,就職指導のような泥臭い業務に加えて,調査研究にも時間を割くべきであり,調査研究スキルを身につけたスタッフが配置される必要もある.

以上,三つのコア業務についてスタッフの在り方を見てきたが,いずれの場合も,従来の教員が関わってきた業務を教育研究から切り離し専業化させることで,高等教育機関の本来の姿である教育研究のために多くの時間を提供することになるという点で共通している.教員と事務職員という区別を捨て去ることが,大学経営を柔軟にし,成長可能な大学を作り上げる.

6.5 大学のスタッフのあるべき姿

以上の検討から,今後の大学において必要とされる人材は,およそ次のようなものになるはずである.

第一に,Non-academicのコア業務に携わるスタッフには,博士の学位を持ち海外とのコミュニケーションに不自由のない語学力のある人材が求められている.

第二に,大学のスタッフは,研究教育を含むどのような業務であれ,海外からの優秀な人材を雇用できる体制を組む必要がある.この点は,ストロナク[4]が特に強く求めていたことでもある.大学内の公的言語は,英語とするような取り組みは,すでにいくつかの大学において実施されているが,今後は高等教育機関での一般的な姿になってゆくべきである.

こうしたスタッフを確保するために,スタッフに対する適切な処遇が必要である.南ニューハンプシャー大学において,教育に専念する教員は出来高払い制になっていることを紹介したが,日本においては,日本的経営から脱却し終身雇用制度から任期制への転換を実現することも重要な要素である.教員においては,すでに任期制については浸透しつつあり,教員に限らないすべてのスタッフが任期制とする大学もあるが,大学の雇用形態の一般的な姿になるにはまだ時間を要する.雇用形態の柔軟な運用を実現するためには,経営者の一方的な意志だけでは実現できず,スタッフとの丁寧なコミュニケーションを取ることが求められる.

一方,海外からの雇用を前提とした取り組みは,全てのドキュメントを多言語対応にするな,公用語を英語にするなどの多くの労力を必要とする作業もあるが,企業にも大学にもすでに多くの前例がありことでもあり,経営者の意志決定さえできれば,さほどの時間を要しないはずである.

これからの大学経営においては,教職協働という概念が入りこむ余地はない.教育を担うスタッフが,従来の事務職員である事もあれば,non-academicな業務を従来の教員が担うこともあれば,スタッフ同士の協働も必要である.しかし,教員と事務職員という区別は,大学がアマチュアの経営者によって経営されていた時代の残滓であり,その区別に基づいた教職協働という概念は,大学経営に利益をもたさない.

6.6 自前主義からの脱却

日本の高等教育機関は,オープン化への取り組みがなかなかできない組織であった.これは日本的経営の下にある企業と同じようなスタイルで自前主義を貫いてきた結果である.

大学は,国からの助成を受け,多くの優遇措置を受けた上で経営されている.そのために,社会への還元が求められていながら,日本の大学はなかなかそれに応えることができずにいる.オープン化はそれに応える機能を果たすだけではなく,他の事業ドメインと異なり,高等教育機関のオープン化への取り組みは,しばしば大きな利益をもたらす.すでに見たように大学間の取り組みが,大学連携である限り,大学間の利益や思惑を巡っての利害調整に多くの時間を費やし,思った成果を上げることができない.一方,大学におけるオープン化の成果は,米国に多くの事例を見ることができる.

これに対し,日本においてオープン化への取り組みが弱いのは,自前主義の呪縛に捕らわれているからである.もし,高等教育機関におけるオープンプラットフォームが提供され,大学が自前主義を捨てて,積極的に成果をオープンプラットフォームに提供するような意志決定ができれば,多くの成果が期待できることは,米国の大学のいくつかのケースが示している.

今後の日本の大学が生き残りをかけて競争しなければならない時代が来る,その時代においても大学に求められていることは,大学のオープン化への取り組みであり,その成否が大学の存亡を決定する.

6.7 私学の未来

アラン・ケイはかつて「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創り出すことである」[33]と述べた.この言葉は文部科学省でもしばしば引用されている[34].文部科学省は,これによって,私立大学は,国の支援に頼ること無く,自立して新しい道を切り開いて行くべきであるという示唆をしている.実際,今後の厳しい経営環境の下では,私立の大学経営が進む道は創造力に満ちたものでなければ,生き残ることはできない.そのためには,大学経営の在り方を根本的に見直す必要がある.その時,国を頼ることはできない.文部科学省は,多くのステークフォルダーを抱え,その利害調整に苦慮しながら,恐らく最善と思われる政策を実施している.しかしながら,それを個別の私学に無理矢理適用することには,自ら限界がある.

国立大学は,こうした文部科学省の政策に大きく左右されることは避けることはできないが,私学はより自立した道を歩むことができる.そこに大きなビジネスチャンスもある.希望のある未来は,私学経営に託されている.

 

(続く)

参考文献

[4] 「機敏に自己革新を,外国人教員を教授会メンバーに」.日本経済新聞, 2013年8月11日付

 [26] Steve Kolowich, “Southern New Hampshire U. Designs a New Template for Faculty Jobs.” THE CHRONICLE OF HIGHER EDUCATION, MAY 08,2014. https://www.chronicle.com/article/Southern-New-Hampshire-U/146443, Last access January 8, 2018. 2014

[32] Birnbaum, Robert. Management fads in higher education: Where they come from, what they do, why they fail. Jossey-Bass, 2000.

[33] Alan Key. A powerful idea about ideas. TED2007. https://www.ted.com/talks/alan_kay_shares_a_powerful_idea_about_ideas, Last access January 8, 2018. 2007

[34] 中央教育審議会.「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」.文部科学省.2014年.

日本の高等教育機関における教員と事務職員(5)

5 オープン化を拒む日本

ここまでは,日本の高等教育機関の構成員についての言わば通時的な課題を考察してきた.この課題を解決するためには,同時に,今日の共時的な課題,すなわち,日本の大学は,世界の大学の一部を構成しているという,日本の高等教育機関を取り巻く現状を見ておく必要がある.

既に見てきたように,日本の経済的社会的な仕組みは,自前主義によって成功を収めてきた.その成功体験を背景にして,大学もまた自前主義の中にある.日本の高等教育機関は,アジアの中では例外的に母語での教育を行えることは誇るべき事だという指摘はその通りだとしても,今日の世界の高等教育機関の中での孤立を招く一因にもなっている.ここでも,長所は,同時に短所にもなる.

この場合の最大の問題点は,目の前にある折角の資源を見逃し,自前主義の下では決して気付かれることのない機会損失を発生させていることにある.

ここでは,その一例として,オンライン教育について見ておくことにしよう.

5.1 米国のオンライン教育に見るオープン化の取り組み

オンライン教育には過去に2つのブームがあった.北米においては,第一のブームは1999年から2001年にかけてのe-learningのブーム[17]であり,第二のブームは2011年から2013年にかけてのMOOC(Massive Open Online Courses)である[18].

第一のブームであったe-learningは,講義資料や講義映像のオンライン配信,オンラインテストやオンラインフォーラムなど,教室で行われてきた講義をオンライン化するものであり,高等教育機関は,経済的に成功することはなかった.しかし,ブームが去ったあとも,大学におけるオンラインの受講者数は増加の一途を辿っていた [19].これには,米国の高等教育機関が,国からの財政支援が途絶え,収益構造を確保するための新たな道を模索する必要に迫られたという側面もあるが,同時にまた,教育のオープン化,すなわちオープンエデュケーションは大学に利益をもたらすものであると捉えているからである.このため米国においては,e-learningブームのあと,この仕組みを利用して,それまでは大学の中に閉じられていた,講座をオンラインで公開するOCW(Open Course Wear)を展開して行くことになった.OCWも経済的な成功は必ずしも収めなかったが,それでもオープンエデュケーションに対する大きな期待は止むことは無かった.

この点は,e-learningへの高等教育機関の取り組みが一貫して低調だった日本とは大きな差がある.この時期に米国の大学はオンライン教育について多くを経験し,日本の大学はほとんど学ぶところが無かった.日本では,オンライン教育は,手間のかかる割に効果の無いものという受け止め方がなされていた.米国でのOCWの活動は,日本ではJOCW(http://jocw.jp/jp/)の活動によって継承され,MOOCのブームは,JMOOC(https://www.jmooc.jp)の活動によって日本に初めて紹介された.いずれの場合も,日本は米国以上の熱心な活動が展開されてきたにも関わらず,オープンエデュケーションに対する日米の認識の差が,投資意欲の大きな差になってあらわれており,人一倍苦労の多い活動を強いられている.

以上の経緯から,自前主義の課題をみるために,オンライン教育は好例となる.そこで,日本の自前主義を見るために,まず米国の二つのケースを見ておくことにしよう.

5.1.1 MOOCとオープンエデュケーション

MOOC(Massive Open Online Courses)は,OCWの活動とは一応独立しており,元々は,カナダの大学に起源を持つ取り組みであったが,オープンエデュケーションに対する意識はOCWよりもさらに強かった.OCWは単に,講義を公開するだけであったが,MOOCは,講義そのものをオンラインで行い,修了証も発行するという大胆な活動だったのである.

2012年に,スタンフォード大学,ハーバード大学,MITなどが参入して,ブームとなり,この年は”The year of the MOOC”[20]と呼ばれるまでになった.このブームの最初のきっかけは,当時スタンフォード大学の教授であった,Sebastian Thrunが体験したことであった.

彼は,あるとき,自らのスタンフォード大学の講義をオンラインで公開した,対面で授業をしながら,同時にMOOCとよばれるオンラインにもこの講義を公開し,学期末の試験をどちらも受けることができるようにした.対面授業を受講したのは,スタンフォード大学の学生200名である.その結果は,驚くべきものであった.成績上位者には対面で受講したスタンフォードの学生はいなかった.なんと上位412位までが,オンラインコースだけを受講した学外受講者だったのである[21].オンライン教育の威力を革新したThrunは,オンライン教育の会社Udacity™を創業することにした.MOOCブームはここから始まったのである.

Thrunはその時は気がつかなかったようだが,オンライン教育では,そのような現象はしばしば観察される.オンライン教育が対面授業以上に高い成果をあげる事があるということは,オンライン教育の専門家の中では,比較的知られている事実である.例えば,日本においても,Thrunの経験よりずっと以前に,ほぼ同様の結果を得た結果がある[22].また,図6は,毎年度全米の大学の教員に向けて行われている,オンライン教育に関するアンケート結果の経年変化を示している.この結果から,オンライン教育は対面講義より劣っているという見解は年々減少し続けており,近年は全体の3割に留まっていることがわかる.また対面以上の効果があるとする見解も一割に届いていることがわかる.Thrunの経験は,彼が最初というわけではなかった.

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図 6オンラインと対面講義の間の教育効果に差はあるか(文献[23])

最終的には,2017年になって,Thrun自身が,MOOCは終わったと宣言した[24]ように,MOOCの活動は,Thrunの思った方向に向くことができなかったが,それはオンライン教育の終わりを示しているのでは無く,むしろオンライン教育が,次の段階に進みつつあるという積極的な宣言なのである.

5.1.2南ニューハンプシャー大学とオープン化

オンライン教育はオープンエデュケーションという方向だけを向いているわけでは無く,高等教育機関により直接的に大きな利益をもたらすものとしても期待されている.その典型的な例が,米国南ニューハンプシャー大学にある.

米国南ニューハンプシャー大学は,1932年に設立された歴史のある大学ではあったが,学生数が五千人に満たない小さな大学であり,小さな大学であるがゆえの経営難に見舞われていた.そこで,2003年に学長に就任した,Paul.J.LeBlancは.この状況を改善すべく,大規模なオンライン教育の仕組みを導入した.ここで一つ注意すべき点は,オンライン教育を単なる通信教育として位置付けることとしたのでは全く無く,コース設計から教員の働き方まですべてをオンライン教育のために徹底的に見直したところにある.

まず,評価方法を見直した.コンピテンシーモデルに基づくダイレクトアセスメントの導入である.コンピテンシーモデルでは,学習時間を一切評価せず,学習者のスキルだけを評価し単位を発行する. これは,学習者にも大学にも大きなメリットがある.学生は,講義回数などの量的な制約を受けること無く,短期間での卒業が可能になる.大学は,カリキュラムを小さく分割したコンピテンシーセットで構築することで,同一の講義で多様な学位に対応することが可能になる.すなわち,講義の使い回しが容易になる.

また.大学側での教育活動は一切行われないため,人的コストは最小限に抑えられる.南ニューハンプシャー大学では,オンキャンパスの学生は,今でも五千人を下回っているが,オンラインの学生は7万人を越えている,また,教員数は150人程度で,オンライン教育を開始する前と殆ど変わっていないことからも,経済効果の大きさをうかがい知ることができる.

この結果は,学習者にも大学にも大きなメリットがある.学生は,講義回数などの量的な制約を受けること無く,短期間での卒業が可能になる.大学が学生に求める学費は,相当に低額なものとなる.学費の高騰に悩む米国では,このような大学は政府からも支持され,2013年3月には,当時のオバマ大統領から,南ニューハンプシャー大学に対して,賞賛が与えられた[25].これに呼応して,米国教育省は,コンピテンシー・ベースのプログラムにも学費援助を認めることとし,南ニューハンプシャー大学がその最初の例になっている.

教員の処遇も見直された.オンライン教育に携わる教員は,講義の数に基づく歩合制とした.一通りの講義数をこなすと,オンキャンパスで教える教員と同等の給与水準となるように給与体系は設計されている[26].オンライン教育は,学習者の主体性が決定的であり,教員は,かつてのように教壇に立つのではなく,学習者の背景に退いて,学習者の求めに応じてコーチングやアドバイスをする.その教員を適切に管理するスタッフが,あえて日本的に言えば事務職員と言うことになる.

最後に,米国では,オンライン教育は単独の大学の中で孤立して存在しているわけでは無い.南ニューハンプシャー大学が徹底的に見直した.講義方法については,そのために適切な教育方法が検討され,多くのスキルアセスメントが出されている.例えば,Council for Aid to Educationでは,職業準備度や学生レベルを測るCollegiate Learning Assessment(CLA+)を開発した.また, Educational Testing Service (ETS)は,学生に学習に関する電子証明書を導入している.さらに, ACT Inc.は,WorkKeyというスキル評価システムを開発している.また,そうした活動に対する投資も寄付も盛んである.例えば,ゲイツ財団は,コン「ピテンシー・ベースの教育プログラムを開発するカレッジに対して100万ドルを助成している
[27].

このように多様なリソースが公開されているのは,米国の各大学がそれぞれの成果をオープンにしていることによって実現されている.日本では見ることのできない仕組みであるが,それでもなお,米国のオンライン教育の研究は相互に孤立しており,もっと相互の成果を活かすべきだという批判さえある[28].

大学は,成果をオープンにし,相互の成果を活かすことで相乗効果が生まれる.これがオープン化を大学経営の中で重視する理由になっている.

5.2 日本の自前主義

日本では,古くからの通信教育の歴史がある.通信教育は,高等教育機関の進学に恵まれない学習者達のセーフティーネットとしての機能を果たしてきた.そのため,安価な学費と懇切な指導により成立してきた.今日において,このような高等教育機関のビジネスモデルは厳しい位置にあり,伝統的な高等教育機関の通信教育は,その歴史を終えようとしているものが多い[29].同じような観点からオンライン教育を考えると,とても投資に見合った成果をあげることはできないことは確かである.

オンライン教育は,従来の教育とは全く異なったアプローチが求められている.教育方法について言えば,ダイレクトアセスメントは,オンライン教育にとって大きなメリットがある.しかしながら,日本には授業時間の遵守などの多くの量的な制約が存在し,ダイレクトアセスメントへの道のりは険しい.米国では,南ニューハンプシャー大学がまず道を開き,国がそれを追認するというアプローチを許したのであり,同じ事は,日米の制度的な相異を乗り越えて,日本にあっても良いはずである.

また,ダイレクトアセスメントのためのスキルアセスメントのツールや,コンピテンシーモデルの研究などが不可欠となる.しかし,そこに,米国のようなオンライン教育のための豊かな支援は無い.教員と事務職員の関係も南ニューハンプシャー大学の例にあるように,大きな変革が不可欠である.しかし,日本の雇用慣行の中では,実現の難しい部分がある米国の成果を活かそうとしても行政との折り合いがつかない.

それでも,日本において,フルオンラインの大学はいくつか創設され,あるいはオンラインのコースを開設する大学もある.これらの大学では,オンライン教育で成果を上げるために,資金の限られた中で,教育方法の開発や,教員と事務職員との関係の改革に取り組むことを求められている.そのためには,結局独自の工夫を強いられ,やがては自前主義が必要となる.日本において,自前主義の陥穽から抽け出ることは容易なことでは無い.

以上は,オンライン教育を一つの例にとったに過ぎないが,日本の自前主義からの脱却が求められている好例となっている.世界の大学がオープン化に向かっている中で,日本の文化的な背景が,自前主義に傾斜しているため,日本の大学も自前主義の大きな制約を受けている,日本の大学が,日本的経営に根付く自前主義を抜け出して,オープン化への道を見いださなければ,オンライン教育の例に象徴されるように,成功するために多くの労力が必要になる.

5.3 大学連携という陥穽:Unizinの苦悩

大学のオープン化に類似するものに大学連携の取り組みがある.日本の高等教育機関では,広く成果をオープンにするという方式よりも限られた範囲での連携が好まれる.しかし,大学連携のベストプラクティスはなかなか出てこない.この事情は.米国でも変わることは無い.2014年にオンライン教育変革をもたらす活動として大きな期待を持って始められた大学連携プロジェクトであるUnizin[30]は今日までのところ,あまり大きな成果を出せずにいる.経費分担を巡る各大学の対立から責任者の入れ替わりなどもあり,内部に困難を抱えていることが,外部からもうかがい知ることができる[31].

大学連携は,各大学の思惑や利益配分を巡っての対立など大学間の立場の相異が先鋭化しやすく,成功するまでには多大な努力を必要とし,さらにそれを維持するためにも多くの苦労を費やすことになる.これに対して,オープンなプラットフォームに自由に各大学が成果を提供できる環境があれば,各大学の思惑によらず,プロジェクトを推進できる可能性はずっと高くなる.大学連携との相異は,オープン化の価値をよく示している.

 

(続く)

参考文献

[17] Chandira Punchihewa. “Introduction to e-learning”. Your e-Learning Tutor: Introduction to e-learning.URL: https://knowelearning.wordpress.com/tag/hype-cycle-of-e-learning/, Last access January 8, 2018. 2013

[18] Li Yuan. “MOOCs and Higher Education: What is next? “, Cetis Blogs, URL: http://blogs.cetis.org.uk/cetisli/2013/06/25/moocs-and-higher-education-what-is-next/, Last access January 8, 2018. 2013

[19] Webster University Online “Trends in Online Learning”, http://websteruonline.com/trends-in-online-learning/, Last access January 8, 2018. 2015

[20] Laura Pappamo. “The Year of the MOOC”, The New York Times, Nov. 2, 2012. http://www.nytimes.com/2012/11/04/education/edlife/massive-open-online-courses-are-multiplying-at-a-rapid-pace.html, Last access January 8, 2018. 2012.

[21] Derrick Harris. “Udacity founder: MOOCs can help the economy, even if they can’t replace college”. https://gigaom.com/2014/01/25/sebastian-thrun-moocs-can-help-the-economy-even-if-they-dont-replace-college/, Last access January 8, 2018. 2014.

[22]小野成志.「e-ラーニングTIESの体験」.教員と職員のこれから.https://www.slideshare.net/SeishiONO/from-now-on-faculty-and-administrative-staff,2018年1月8日閲覧,2017年

[23] ALLEN, I. Elaine; SEAMAN, Jeff. “Online Report Card: Tracking Online Education in the United States”. Babson Survey Research Group, 2016.

[24] John Warner. “MOOCs Are "Dead." What's Next? Uh-oh”. Inside Higher Ed. October 11,2017. https://www.insidehighered.com/blogs/just-visiting/moocs-are-dead-whats-next-uh-oh, Last access January 8, 2018. 2017

[25] The White House Office of the Press Secretary, “FACT SHEET on the President’s Plan to Make College More Affordable: A Better Bargain for the Middle Class”. https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2013/08/22/fact-sheet-president-s-plan-make-college-more-affordable-better-bargain-, Last access January 8, 2018. 2013

 [26] Steve Kolowich, “Southern New Hampshire U. Designs a New Template for Faculty Jobs.” THE CHRONICLE OF HIGHER EDUCATION, MAY 08,2014. https://www.chronicle.com/article/Southern-New-Hampshire-U/146443, Last access January 8, 2018. 2014

 [27] 船守美穂.「Post MOOC 時代の大学教育―オンライン教育を取り入れた教育の質向上の試み」.NPO法人CCC-TIES 報告集 vol.6,TIES シンポジウムオープンエデュケーションに直面する日本の大学 −Post MOOCとCHiLOの可能性−, http://www.cccties.org/wp/wp-content/uploads/2014/11/p20140614_TIESsymposium_v1.0.pdf,2018年1月8日閲覧,2014年.

[28] Martin Weller. “Mapping the open education landscape”, The Ed Techie, November  9, 2017. http://blog.edtechie.net/oep/mapping-the-open-education-landscape/, Last access January 8, 2018. 2017

[29] 榊原康貴.「大学通信教育とオープンエデュケーション」.ViewPoint,Vol14,CTCアカデミックユーザーアソシエーション,2014年

[30] Feldstein, M. “Why Unizin is a Threat to edX”. Re-trieved from e-Literate: http://mfeldstein. com/unizin-threat-edx, Last access January 8, 2018. 2014.

[31] Phil Hill. “Unizin Updates: A change in direction and a likely change in culture”. E-Literate: https://mfeldstein.com/unizin-updates-change-direction-likely-change-culture/, Last access January 8, 2018. 2017