ラテン語は学生の頃から興味があって、しかし、タダでも語学のできない身にとってはあの恐るべき格変化というものがある以上手も出せないと諦めていた。しかし、最近ラテン語の教養書を少し買いためて雰囲気だけは楽しんでいる。
そんな中で、逸身喜一郎の「ラテン語のはなし」は一番おもしろかったと思う。
特に冒頭の"et tu, Brute,"をめぐる話がおもしろい。もともとこれはシェークスピアの劇中の言葉「ブルータス、おまえもか」なのだが、これがシェークスピアの原文でここだけラテン語で書かれている。そうしてシェークスピアが参照したスエトニウス「皇帝伝」の原文では(当然ラテン語で書かれている中で)、この部分だけギリシア語で書かれている。
これだけの事だが、そこにヨーロッパにおける言語文化の深さを垣間見る思いがする。先日読んだヘーゲルの「歴史哲学」ではヨーロッパの優秀性の一つにアルファベットの文字表記が挙げられていた。漢字は何万字あっても尽くせないが、アルファベットはわずか20数字で済む。ヘーゲルが指摘したその便利さについて、逸身喜一郎もまた指摘している。
とはいえ格変化である。"Brutus,Bruti,Bruto,Brutum,Bruto,Brute"
ふーむ。名詞の第1変化くらいは覚えるかな。
そういえば、チェホフの「三人姉妹」の劇中で、マーシャが憤然とラテン語の動詞の格変化を叫ぶというシーンがあることも本書で教えられた。
"amo,amas,amat,amamus,amatis,amant"
その意味するところもまたヨーロッパにおけるラテン語の素養の深さを考えさせられる。
- 作者: 逸身喜一郎
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 2000/12
- メディア: 単行本
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- 作者: スエトニウス,國原吉之助
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1986/08/18
- メディア: 文庫
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