ちょっと前に、経済学史の翻訳を分担執筆したことがあった。邦題は「女性経済学者群像」となっているが、原題は「アダム・スミスの娘たち」である。この原題でも30年くらい前に翻訳がでていたのだが、その改訂版が出たので再度分担させていただいたものである。分担執筆といっても、監訳者や共訳者の皆さんに徹底的に直されたもので、とても胸を張って自分の翻訳といえるものではない。
しかし、分担したベアトリス・ウェッブという人に出会えたのはある意味運が良かったと思っている。翻訳の都合上彼女について少し調べなければならなかったのだが、その都度ちょっとした驚きに出くわした。19世紀は、女性が選挙権に参加するための女性公民権運動が盛んであって、映画「メアリー・ポピンズ」の冒頭にもそうしたシーンが出てくるし、同じく映画「マイ・フェア・レディ」にも女性たちの行進の場面が出てくる。ところが、ベアトリス・ウェッブは女性公民権運動には無関心であるばかりか否定的であった。おそらく彼女からすればそれは自然なことであり、女性が男性より地位が低いなどとは夢にも考えなかったからであろう。それだけでも豪胆な人である。
つい先日、法政大学の原伸子先生のお話を聞く機会があったが、先生もウェッブに関心をお持ちのようであった。そのお話の中で、ベバレッジ卿に対するベアトリス・ウェッブの評価が「人間的にはつまらない人」と日記に書かれている、という指摘をされていたことが印象に残った。ベバレッジ卿といえば、社会保障制度の先駆けとなった「ベバレッジ報告」で知られており、ウェッブとは立場をほぼ同じくしている。理論的には同志でも人間としては辛口の評価をするところは、いかにもベアトリス・ウェッブらしいところである。ちなみにこの話は、Jose Harrisのベバレッジ卿の伝記の冒頭シーンにも登場すると、これも原先生に教えていただいた。
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