HP Spectre Folio 13は、本革カバーの 13.3 型コンバーチブル 2-in-1 である。私がこれを購入したのは 2018 年 12 月のことなので、もう、8 年以上も前のことになる。ノート PCのカバー にメタルではなく本革を使うという発想は、そうそう生まれるものではない。同時に、こんなコンセプトでは、たぶん売れないと思った。案の定、二度とこのコンセプトの PC は出てこないようである。しかし、この不思議なノートPC のデザインを私は今でもたいへん気に入っている。見た目だけではなく、当時としてはバッテリーも長時間駆動で、外へ持ち出すのに重宝した。
一方、購入当初から動作は遅かった。構成(CPU やメモリ)が控えめだったということだろう。当然のことながら、Windows 11 にアップデートしてからは、実用にはとても耐えられないものになった。気に入っているのに使えないノート PC になってゆくのが残念だった。
といって、Windows をあきらめて Linux を入れるのは、ためらいがあった。私の知っているデスクトップ Linux は、もう20 年も前の知識で言えば、趣味の域を出ない。20 年経ってもその状況はあまり変わらないだろう。
Linux Mint を入れてみる
いろいろためらったが、ここは実用性は諦めて趣味のノート PC にしようと決断し、2025 年 12 月に Linux Mint を入れてみた。
ところが驚いたことに、趣味どころか実用的なノート PC になったのである。第一に、起動も操作も、いままでこのノート PC では経験したことのないような軽快な動作をする。そして、ソフトウェアも想像以上に実用性を備えていた。
Office を使う
昔の感覚で言えば、Microsoft Office との互換性がないことが、Linux デスクトップが使えない第一の要素だった。
ところが LibreOffice と OnlyOffice は、Office 365 との互換性が目を見張るほど高い。日常の文書・表計算程度では大きく困らない。もちろん、凝った書式や厳密なレイアウトは時として諦めることになるのだが、それも、そこで「作業が止まる」ほどではない。
Evernote / Slack / LINE
Evernote:アプリはないが、PWA でそれらしく使える。私の使い方では十分である。
Slack:今のバージョンで普通に動作する。もっとも、最初にインストールした時点では、ログインの都度認証のやり直しになって実用に耐えられず、頭を抱えた経緯がある。
LINE:毎回ログインを求められる。これは仕様である。ただ、私はそもそも LINE をあまり使わないので、影響は小さい。
課題とその解決
スピーカーが動作しない
Linux Mint 22.2 から Linux Mint 22.3 にアップデートしたら、スピーカーが動作しなくなった。ドライバが若干不安定のようだ。設定をレガシーに変更して、モノラルではあるが鳴るようになった。次のバージョンでは戻っているだろうか。
以下を追加する。ここで dsp_driver=1 は HDA レガシー、2 は SST、3 は SOF ドライバーを指す。
TeX Live でレイアウトが崩れる
Linux なので、というつもりで TeX Live を入れてみる。しかし、ここで思わぬことが起きた。macOS などで作成した TeX 文書(PDF)をこちらで見ると、微妙にレイアウトが崩れる。行や字間がほんの少し変わる。つまりメトリックが合っていない。最初は原因がわからず、しばらく首をかしげた。フォントか、パッケージか、あるいはどこかの設定か――と疑うところはいくらでもある。
ところが原因は意外に単純で、Linux Mint 側の TeX Live が 2023 年版だったのである。私は macOS 側などでは当然のように 2025 年版を使っていたので、版の違いに考えが及ばなかった。しかし、版が違えばフォントやパッケージの挙動も微妙に変わり得る。結果として、同じソースでも「同じ版面」にはならない。
この原因は、実は自力ではしばらく掴めなかった。だが、ChatGPT に状況を投げたところ、原因を教えてくれた。
VPNの設定
職場とは、VPNで接続している。今時VPNなど、それ自身レガシーというものかもしれない。しかし、便利に使っている。そこで、Linux MintのGUIで設定しようとしたが、動作しなかった。私はstrongswanは手慣れている方なので、strongswanのクライアントを構築することにした。設定ファイルは、ChatGPTに作ってもらった。期待通りに動作してくれた。
加えて、デスクトップにシエルのショートカットを作ってVPNのオンとオフを可能にした。こういうシェルスクリプトも、Chat GPTにまかせてしまえばよい。
フォント
フォントの課題は、20 年前とは様子が少し違う。互換性を考えると Windows フォントが欲しくなる。日本語フォントはライセンスの問題が残されているのは、昔のままであるものの、今では、ttf-mscorefonts-installer などでTimes New Romanなどは、ある程度何とかなる。なによりも、自由に使える美しい日本語フォントは、数多く出ており、morisawaフォントなど手元にある有償フォントは、ライセンスの範囲でそのまま使えるので、ほぼ満足のゆく結果を手に入れることができる。
生体認証:顔認証、指紋認証
顔認証と指紋認証も試した。指紋認証は外付けのドングルである。どちらも「きちんとした製品」のようにはいかないが、使いようはある。
顔認証:かなり雑駁な印象である。だが雑駁な分、認証が速い。私は「早いから良し」とした。
指紋認証:どうにも挙動が怪しい。コマンドラインで検証すると通るのに、実際のログインや解除では通らないことがある。
指紋認証は、ドライバや PAM、ロック機構の噛み合わせの問題のようにも見える。今後試してみたいこととしては、たとえば次のような点である。
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指紋認証をいったん「ログインだけ」に限定し、スクリーンロック解除側から外して様子を見る
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ロック機構が複数混ざっていないか(どれが動いているか)整理して統一する
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失敗時のログ(journalctl 等)を追って、PAM や polkit のあたりに何が出るか確認する
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アップデートやカーネル更新で改善する可能性もあるので、追随してみる
残されている課題
インストール
さすがに不慣れな Linux である。「入れたら終わり」というほど甘くはなく、実は 3 回ほど再インストールしている。設定をいじっては戻し、動かしては崩し、という昔ながらの試行錯誤である。まぁ、こういうことはある。
実はもう一台、この PC の後継として買った HP Spectre 13 がある。こちらは、そもそもインストールさえできない。 BOOT マネージャー周りで Secure Boot を外すなど、設定を色々いじったが、解決に至らず。
スクリーンロック
現状で解消できていないのがスクリーンロックである。指紋認証は通ったように見えるのにロックが外れない。パスワードも通らない。私の設定が悪いのだろうが、現象だけ見ると厄介だ。
当面は、マルチユーザモードにして顔認証でロックを外す運用にしている。ちょっと迂回ではあるが、実用上は耐えられる。
Adobe 製品
Adobe製品群だけは今でも使えないようである。ただ、かなり使える方向に前進した、という記事を見かけた。どうなるのだろうか。
結論
昔なら、こういう環境構築は本を積み上げ、夜をつぶし、あれこれ試して何ヶ月もかけて整えたものだ。だが今は ChatGPT がいる。迷ったときの「当たり」を付けるのが早い。結果として、本来なら何ヶ月もかかる道筋が、数日で形になる。これは正直、時代が変わったと思う。
Spectre Folio 13は、好きな道具なのに使えない期間が長かった。ところが Linux Mint を入れたら、体感としては「別の PC」になった。少なくとも私の用途では、もう趣味ではなく実用品になっていた。