Seishi Ono's blog

Fugaces labuntur anni. 歳月人を待たず

クラウドの幻想

先日大阪で開催されたCUUA研究分科会で東京大学の安東先生は、かのリチャード・ストールマンの「クラウドは従来のすべての技術を包括する便利な言葉」という諧謔に満ちた言葉を引きながら「そこに新しいものは何もない。」と断じていた。

先日IBMのテレビCMを眺めていたら、「クラウドはビジネスに革新をもたらす」と言っているシーンに出会った。ところが、さてそのクラウドとは何かはそこでは一切説明されない。顧客は誰かを知り尽くしているIBMらしいCMである。しかし、見るものが見れば、まさに安東先生の言葉通り「そこに新しいものは何もない。」ことを実感させられるCMでもある。

一方でしばらくAmazon EC2で遊んでみると、そこにはそれなりにおもしろさも存在する。10セントで立ち上げられるサーバ、競りで決めることのできるスポットサーバの値段など遊び心がなかなかある。

少し前にはWeb2.0という「便利な言葉」が流行った。Web2.0は、Wiki、CMS、blog、SNS などを巧に包括しているという点で「クラウド」に等しい。技術が言葉を作り出すことはあるが、言葉が技術を生み出すことはない。Web2.0もクラウドも技術から生まれたわけではなく、曖昧な一連の技術を指す空虚な言葉に過ぎないという点でストールマンの言っていることは正しい。ただし、言葉は流行を生み、スペキュレーションを生む。現代社会ではそれはそれで意味が無いわけではないことには注意が必要である。

しかし、それだけではなく既存の技術と技術の組み合わせが思わぬ成果を生むことだってないわけではない。例えば、EC2はそういう工夫の一つかもしれない、と今のところは思っている。

ただ、EC2はきわめて安易ではある。これだけ安いサーバが手軽に入れば一般のユーザはうれしいが、同時に悪意のある利用者も押しかける。クラウドの大量のリソースを使えばスパムも偽装サイトもやりたい放題だろう。メールサーバとしてろくに機能しないのはEC2のセキュリティに対する認識の甘さを示してもいる。

早晩サービスはそういうところから崩れ落ちたりする。セキュリティに手をかければ高コストは避けられず、遊び心も失われてゆく。そうやって消えていったシステムはたくさんある。