Seishi Ono's blog

Fugaces labuntur anni. 歳月人を待たず

サービスのボトムラインはどこまでも高くなる

S25RとtaRgrayを本格稼働させて2週間ほど経過したが、全くクレームもなく運用できているので一安心といったところである。

おおざっぱな統計を取ってみると、メール1万通あたりtaRgrayでフィルタされたものが8千通、通過した2千通のうちspamassassinにフィルタされたものが1千通である。これは、世の中で流通しているメールの9割がスパムという推定にほぼ一致している。

S25Rで浅見氏が主張する数字やtaRgrayで佐藤氏が主張する数字より大分性能が悪いように見えるかもしれないが、これは外部のアカウントからメール転送をかけているユーザが結構居るからである。転送されたメールはspamassassinのお世話になるしかない。

Greylisting運用時代も最初のうちは十分なフィルタ性能があったが、やがてボロボロになってしまった。ボロボロになってからの統計は取っていないが、おそらくtaRgrayの8割程度の性能ではなかったかと思う。そういう頃になってくるとメールの遅配へのクレームが結構あがってくる。最終的にfalse positiveになってしまうことも多く、ホワイトリストのメンテナンスで苦労する羽目になる。taRgrayにしてからは、S25Rの浅見氏のホワイトリストを挟んでいる効果もあり、このような苦労は今のところ1件も発生していない。

管理者からすれば、これで非常に満足のゆく結果なのだが、それで万歳というわけにはゆかない。ユーザにランダムにインタビューしてみると「確かにスパムはめっきり減ったね」と言ってはくれる。しかしユーザは全然満足はしていない。1日に1通どころか1週間に1通しかこないスパムでも「もう少し減ってくれれば」などと要望があがってくる。そこで「あなた宛だけでも毎日千通からのスパムが除去されているのですよ。」などとユーザに言ってみたところで彼らには何の感銘もあるはずがない。gmailなどはほとんどスパムはないし、ないのが当たり前と思っているユーザも少なくない。

そうなると、システム管理者も時には意地になって、フィルタのスコアがあと0.1あれば阻止できたのにというようなスパムを見るにつけ、スコアを少し下げてみたいといういけない誘惑に駆られそうになる。しかしそんなことをしたところでスパムはゼロにはならないし、余計にfalse positiveを出してシステムが破綻してしまうという事態に直面してしまうかもしれない。

インターネット上の様々なサービスは、すぐにコモディティ化してしまう。あって当たり前のものにだれも感謝はしてくれない。こういう世界で高品質なサービスをいくらがんばって提供してもちっとも感謝されるどころか、少しでもfalseがあると抗議の嵐が殺到することだってある。コモディティ化した商品のサービスボトムラインは、無限大の点に位置している。

賢いシステム管理者はそういうことに気づかねばならない。ところが、腕の良い管理者がそういうある種のずるがしこさを持っているかというとそうではない。一般にシステム管理者はお人好しである。

私自身には全く当てはまらないが、私の知るシステム管理者たちを見るにつけ、ここ10年来、ユーザサイドに棲む優れたネットワーク管理者たちは、多くの場合、こうしたコモディティ化したインターネットという商品に対してユーザが求める高い品質を誰にも感謝されないまま実現し続けてきたのだと私は思う。もっと尊敬される地位が彼らに与えられなければ、やがてすばらしい技術は滅び去ってしまうだろう。そうなってからあわてても遅いのだが。